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二夜【心霊スポット取材】○採湖の怪

続いて我々が向かったのは今回の心霊スポット取材メーンイベント。○採湖である。○採湖にまつわる怖い噂は、私のジャリ時代で既にありました。私がジャリ の頃よく聞いたのが「あそこには地蔵がなんまらあるじゃん?あの地蔵の数だけ○採湖で溺死してるってことだ」である。というか、むしろこれしか知らなかっ た。サクと出会うまでは・・・・・・。 K高校に入学し、初めてクラスの教室にはいり、先生の話を聞くために行儀はよくないがみんな着席していた。その中で周りのイケイケツッパリ軍団よりも頭一 個分、頭が飛び出ている人間がいた。そう。サクであった。当時の印象は「デカい」。そんなデカいサクであるが、話してみると意外にサクだけに気さくな人物 だった。そんなこんなでサク率いる「我ら不思議なところ探検隊」に加わることとなった。 そうして遊んでいた我々だったが、怖いこと怖い話怖い噂といったキーワードを実はあまり言い合ってはいなかった。今から思うとどうしてだろう、と不思議な こと極まりない。サクたちがまさかここまで怖いものが好きだったなんて・・・・・・。はじめてあったあの日から同じにおいのする人間だと思っていたんだ! なんか恋人のことを書く中年の気分になってきた・・・・・・。 そんなこんなで、サクから○採湖にまつわる怪談を本格的に無理やり聞かされるようになったのは、K高校卒業後のことであった。サクと冒頭でも登場したT君 とは卒業後も割りと談合することが多かった。そうした数多く行われた談合の中で、サクから無理やり聞かされた○採湖にまつわる怪談を紹介します。もう一度 書くが、サクが重度のホラー患者であることはこのときもまだ気づいていなかった・・・・・・。 <○採湖 サク談> ○採湖では、そこでなくなった方の数だけお地蔵さんがおいてあるんだよ。昔はね、スケートができたんだよ。天然のスケートリンクだったのさ。だけど氷にヒビがはいっちゃって、スケートしてた人たちが溺れちゃったんだって。 それから、あそこで溺れると「引っ張られる」のさ。湖底から手が出てきて。 という話を何度もサクから聞かされたことがある。そうこうして、巨人族とドワーフのタッグが結成され、いま向かっているところはまぎれもなく○採湖である。 ○採湖への道中。サクの様子がおかしい。一体どうしたんだ。まさか今度は○採湖がないなんていうんじゃないだろうな。だとするならば我々は存在しないものに対して震え上がっていたのか。 「いや・・・・・・ちょ、ちょっと寝ていいスか」 ○採湖はあるようだ。それよりもどうしたんだ。寝てもいいけど。聞くところによるとサクは夜勤明けだったのだが一睡もしていなかったという。体調管理もで きて始めて立派な社会人なんですよ!サクさん!といいつつも実は私も徹夜明けで1時間程度目をつむっていただけだった。サクの丁寧かつ慎重すぎる運転に よって走るサク号がフラフラし始めた。これはやばい。スピードも徐々に落ちてくる。おい!起きてるか!○採湖まであと少しだぞ!目を覚ませ!30キロくら いでサク・カーを走らせてようやく○採湖駐車場に到着した。 「水森・・・・・・・ちょっと仮眠とります・・・・・・もうダメです・・・・・・」 こんな薄気味悪い場所で仮眠を取るとはたいした男だ。しかも五分もしないうちにクースカいってる。しかたない。私もこの気味の悪い場所でしばし目をつむらせてもらおう・・・・・・。 どれくらい目をつむっていただろう。一時間くらいだろうか。サクがむくむくいってる。起きたかな?サク、大丈夫か? 「おはようございますぅ・・・・・・」 なんとか大丈夫そうだ。 「そろそろいきましょうかぁ」 どうやらこの男の心臓は鉄製らしい。奇妙な場所での仮眠。さらにこれから向かう場所は私がジャリ時代、恐怖で震え上がった場所だというのに。「そろそろい きましょうかぁ」とまるでこれから友達の家に遊びに行く小学生のような口調。この男、やはり心臓が鉄でできているに違いない。 私たちは、それぞれが持ってきた物を整理した。懐中電灯よーし。カメラ・・・・・・あ。私のケータイカメラでは暗すぎてほとんど写らない・・・・・・。残 念だがこれでいくしかない。音声は撮れるはずだ!サクのデカいケータイのほうはやはり高性能だった。ナイトショットモードはないものの、懐中電灯で照らし てぼんやり見える程度であれば周囲の撮影が可能だ。さすがは心霊四次元ポケット。 「よし、いきますか!」 がさがさ ばささばささばさばさばばさ 「あああああああっ!」 水森、大丈夫ですよ。たぶんカラスです。 私は開口一番カラスらしき動物が発した音にビビってしまった。ビビリだということがバレてしまった瞬間だった。 「ここをずーっと行くとお地蔵さんがズラーっと並んでいるんですよ」 なるほど・・・・・・怖い。道中、木々を懐中電灯で照らす度にカラスらしき動物が激しい音をだす。 がさがさががががさがさ ばだばだばだばだだだだあ 「うあああああああっ!」 「うおぉぉ」 やめてくださいよ。水森の声にビックリするんですよね。も~。 どうやらサクは私の奇声のほうが○採湖よりも怖いらしい。なるほど、生きている人間のほうが怖いということか。なるほど。と関心している場合ではない。お地蔵さんを一体も見ないのだが? 「そうだねー・・・・・・あれー、ないねー」 おかしいな・・・・・・この辺にあるんですけどね。サクは頭を抱えている。実は学生時代、私も○採湖へはよく来ていたのだ。当時、第三次サバイバルゲーム・ブームだったため戦闘員として私も参加し、戦場はここだったのだ。そのときはお地蔵さんを私も見ている。 「うん、やっぱりないね。へんだなー」 あるはずの、いや、あったはずのお地蔵さんがない。逆に気持ちが悪い。ここへ来る前サクと「お地蔵さんの数を数えよう。そして端まで数えたら、また数えて 戻ってこよう。お地蔵さんの数が行きと帰りで合わなかったら怖いね」なんて話していたのだ。どうやらそのミッションはできそうもない。なぜならお地蔵さん が一体もいないのだから。 カラスらしき動物の発する音と、○採湖周辺のカオスな空気と戦いながら歩いていると、あたりが明るくなってきた。建物も見えてきた。サク、あの建物はなに? 「ああー、あれは博物館だねー」 ほう、博物館。夜の博物館か・・・・・・いってみよう! 「うおおおお!」 めずらしい。サクが声をあげた。どうした! 「いや・・・・・・自分の声が建物から跳ね返ってきただけでした・・・・・・」 サクは自分の話し声にビックリしたらしい。鉄の心臓を持つ男は自ら発した声に驚いたのだ!私は心のなかで小さくガッツポーズをした。しかしおしい。サクの 場合は「怖い」ではなく「ビックリする」なのだ。そんな鉄野郎をいつか恐怖させてやりたい。そんな野望が芽生え始めてきた。 「外からだけど、夜の博物館覗きってのもわるくないね」 たしかに。こんなこと滅多なことがあっても恐らくやらないだろう。人生に一度あるかないかだ。楽しもう。我々はいま人生に一度やるかやらないかの夜の博物館覗きをしている。 博物館から離れ、○採湖取材後半を続行。すると、壁にビッシリとベニヤ板が打ちつけられている建物を発見した。なんのためにこんな事をしたのだろう。 「水森、このベニヤ板をさノックしてみない?」 でたよ。怖いもの知らずの鉄野郎。ノックが帰ってきたらどうすんのさ! 「それはそれで面白いじゃないスか」 この男本当に怖いもの知らずかよ!じゃ、じゃあやってみなよ! コンコン コンコンコン コンコンコン ・・・・・・。なにもない。よかった。これでノックが帰ってきたら恐らく私は脳に強い衝撃を受けて痙攣して倒れていただろう。サクは少し残念そうだ。 我々は再び後半を歩き出した。うーん。特に怪異らしきことは起きなかったなー。少し残念だが恐怖は味わうことができたから、よしとしよう。マンガを描くと き説得力を持たせるには作者が体験したことが一番なのだ。収穫ありだ!後半も最後になり我々は車へと戻ることにした。そのとき るせぇんだよんなろ~ 「!?」 「なになになになになに!」 「わからない、と、とりあえず急いで車に入ろう!」 よく見ると、○採湖出口がガッツリ一台の大きな車によって塞がれている。なにやら怒鳴り散らすような声も聞こえる。なにがあったんだ。さすがのサクも不安 な表情を浮かべている。あの車が去るのを待とう。サクがそう提案した。車が去った。一体なぜ出口を塞ぎ、我々に対してなのか怒鳴り散らしていたのだろう。 不可解である。 サク・カーは家路を急いだ。その途中、道路の逆走とUターンを繰り返すおかしな車に出くわした。その様子を見ていたサクは運転しながら不安げな表情を浮かべている。 今回の取材で分かったことが一つある。サクは、得体の知れないものに対してよりも、生きている人間に恐怖するということがわかった。

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